「おい、見ろよ」
「ん?なんだ?」
「あれが地球だ」
「へぇ、ずいぶんときれいな惑星じゃないか」
「ま、遠くから見ている分にはな」
「というと?」
「地球にはニンゲンという生物が住んでいて、一年中戦争をしたり、有害物質を垂れ流しにしたり、森林を伐採したりしているんだ」
「なるほど。自分の墓を自分で掘るのが好きな生き物ってことか」
「まぁ、そういうことになるね。実際今、地球は温暖化の危機に瀕しているんだけど、多くのニンゲンはまるで他人事のように関心がないからね」
「なんだい?そのチキュウオンダンカってのは」
「そうだな。簡単に言うと、ニンゲンの出した排気ガスのせいで地球に熱がこもって、地球の気温が上がってしまうことだ」
「気温が上がりゃ、海水浴も年中できてよさそうなもんじゃないか?」
「そう話は簡単じゃないんだよ。ぱっと思いつくだけでも、海面の上昇、食糧危機、伝染病の拡大、とニンゲンが生きていくのに非常に大きな影響を及ぼすことになるんだよ」
「ふーん。だったらそのオンダンカとやらをとめればいいじゃないか」
「それができたら苦労はしないさ。さっきも言ったけど、まだニンゲンの中でも、本当に地球温暖化に危機感を抱いているのはほんの一握りに過ぎないんだ」
「でも、将来なんらかの災害が起こることは、もうわかってるんだろ?じゃあどうしてそれを止めようとしないんだよ」
「ニンゲンっていう生き物は一度手に入れた快適な生活というものをなかなか変えることはできないんだ」
「将来必ず破滅することがわかってるのに?」
「そうだよ。それにニンゲンはなかなかずるがしこくてね。人類の危機が訪れるような時代には自分たちはもう生きてない、っていうことを理解しているのさ」
「ニンゲンってのは、自分の首だけじゃなくて、自分の孫やその子供の首を絞めるのも好きな生き物らしいな。そんなに死刑台への階段をせっせと作って何が楽しいのかね」
「ニンゲンは目の前の欲望に堕落しやすい。自分の出したゴミは誰かが片付けてくれると思ってるし、別に誰も片付けなかったとしても自分は困らないからそれでいいのさ」
「たかだか100年くらいの将来なんて、ちょっと想像力を働かせればわかりそうなもんだけどな」
「さっきも言ったが、100年後には今生きているほぼすべてのニンゲンは生きてはいない。ニンゲンは露のようにはかない存在なんだよ」
「なるほどね。で、俺たちはなんでこの地球なんてところまで来たんだっけ?」
「自分の任務くらいしっかり頭に入れておけよ。俺たちはこの地球、というよりニンゲンだな。ニンゲンが俺たちの脅威となりうる存在かどうかを調査しに来たんだろ。宇宙の中でも知性や理性といったものを持つ生物はまだそんなに多くないからな」
「そういえばそうだったな。危険なようだったら抹殺も辞さない、ってことだったな。しかし自分で墓穴を掘るのが好きなようなやからが俺たちの脅威になるようには思えんがな」
「そうだな。文明的にも非常に原始的だし、俺たちのような地球外生命体の認知もしていない。現在はもちろん、将来的にも俺たちの脅威となる可能性は限りなく低い」
「ほっといても勝手に自滅していくだろう。むしろそれを望んでいるかのようにも思えるな。お前の話を聞いていると。しかし、お前はずいぶんニンゲンについて詳しいな」
「ニンゲンについてのデータは他の惑星からある程度もらっていたし、お前がぐっすり眠っている間ニンゲンをサンプリングしたりしてぎちんと調べておいたんだよ」
「そりゃご苦労さんなこって。ま、それじゃあ、調査も無事終了したところで愛しの故郷に帰りますか」
「ホントお前はお気楽でうらやましいよ」
こうして
人類は
救われましたとさ。
チャンチャン。
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